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Boys Will Be Boys Ⅲ

  
  自分の楽団の演奏が終わるなり、アンドレは急いで楽器を片付けると、一目散に先ほどの演奏が行われていた舞台にかけていきました。もう小さな女の子はいませんでしたが、ブヴァールとペキュシェがいました。

  「さっき演奏していた桃色の衣の女の子は、、、」

  アンドレは心臓が飛び出しそうになるのをこらえながら訊ねました。

  「桃色の衣?ああ、あれは男の子ですよ」

  ペキュシェがいいました。

  「何を言うんだい、いったいぜんたいおかしなことを言うやつだ。なあ、あの聴いた事もないような電気ベースを弾いていたのは誰なんだい?」

  アンドレはもう一度訊ねました。

  「ピアノ弾きの女の子のことかい?」

  とブヴァールが言いました。

  「ちがうそれは男の子じゃないか、真っ黒い髪の男の子じゃないんだ、さっきまでほらここで素敵に唄っていた女の子だよ、桃色の衣を着た、何処へ行ってしまったんだい、、、いやそうだ、そういえば、あの日酒場で信じられないようなピアノを弾いた男の子、真っ黒い髪の、あれは何者なんだい?」





  「いったいアンドレさんが知りたいのは男の子なのですか?女の子なのですか?」

  ペキュシェが悲しげな顔で言いました。

  「女の子、いや、男の子、ううん、両方だ、さあ、もうからかうのはよしておくれ、あれはいったい何者なんだい?」

  ブヴァールとペキュシェはなにやら困った様子で、二人でひそひそ相談しておりましたが、そのうち二人とも可笑しくてしょうがないといった風にくすくす笑い出しました。

  「さあ、お願いだ、お願いだから教えておくれ、意地悪しないで、さあ、教えておくれよ、あの子らは何者なんだい?」

  アンドレはもう泣き出しそうでした。ブヴァールとペキュシェは、またひそひそ相談をはじめました。しばらくして、あらたまってアンドレの方へ向きなおると、声をあわせて言いました。

  「男の子はいつまでたっても男の子!」

  あっけにとられたアンドレをのこして、二人は踊るようにかけていきました。
  ブヴァールとペキュシェの笑い声が夜空に響き渡りました。


  家に帰ったアンドレは、今夜の自分の演奏のことなんか忘れてしまって、小さな女の子と小さな男の子のことばかり考えていました。

  アンドレは蝋燭の灯りで、五線紙の裏に手紙を書き始めました。一通は真っ黒い髪の男の子に、もう一通は桃色の衣の女の子に。書き終えてアンドレはとても悲しくなりました。手紙の宛先を知りませんでしたから。アンドレは窓から見える星空をぼんやり眺めました。双子の流れ星が、恐ろしいくらいのスピードで、追いかけっこしながら夜空を横切るのがみえました。アンドレはあわてて家をとびだしました。
  
  天の川が美しく輝いていました。
  双子の流れ星はもうどこにも見あたりませんでした。


  おしまい。  

Posted by イチロウ at ◆2011年07月03日00:00