RUM DANCE HALL
どうしても伝えたいことがあって、
深夜に足を運んだ『R』は思った通り大変な混雑だっけど、
かろうじて1席だけ空いていたカウンター席に腰を下ろした私に、
『R』の店主は、
挨拶もしないだろう、
くらいのことは、
あらかじめ判っていたし、
店の混雑が収束するまでの数時間、
誰からも同情されない風情で、
このカウンターに居座る術くらいは心得ていて、
無言のまま、
『嫌々』といった感じで手渡された、
おしぼり代わりの日本手拭いの温かさも、
いつもと同じだし、
泥酔してしまった女のために呼ばれた、
タクシーの運転手がドアをノックするのも、
顔見知りの常連たちとの挨拶も、
すべてが既視感をともなっていて、
後ろを通り過ぎる無言のままの店主が、
私の身体にかなり乱暴な『一撃』を喰らわせてくるのも、
客が少なくなってくれば、
聞えよがしに店主が私の噂話を始めることすら、
あらかじめ予想ができたくらいで、
店内に残された客が数名になってくる、
あるのか無いのかわからない『閉店時間』あたりに、
流される曲が、
Tom WaitsでもNeil Youngでもなく、
Cassandra Wilson の
『Harvest Moon』 だということさえ、
わかっていたのだけど、
ただ一つ意外だったのは、例の
『だって僕は君が好きで、踊る君が好きで.....』
の歌詞のところで、
不意に涙が溢れてしまったことだけ。